2008.9 19回リサイタルの批評
2008.9
19回リサイタルの批評が、9月号の音楽現代と音楽の友に載りました。
抜粋
平井の「平城山」「びいでびいで」などの床しい感情を湛えた諸曲、高田の連作歌曲「パリ旅情」(深尾須磨子詩)の詩と旋律、和声の独特の色合いとより現代的な拡がりを併せ持つ三善の「抒情小曲集」(萩原朔太郎・詩)から詩と音楽の不可分の一体性、日本語の語感から生じた抒情性を、前中は自然な発声と鋭い観察力で「歌」に表す事の出来る音楽家だ。それは花岡のピアノに共通する曲の内面の奥深くに徹底して迫った精神性の高い演奏の極地にあると言えよう。最後の4曲の歌唱で聴かせた温かい祈りの境地も二人の芸格を示していた。 (保延裕史・音楽現代)
19回になる前中榮子、長く日本歌曲を歌い続けている1人である。そしてそのつど、歌の奥行きを深めている。前半に平井康三郎、高田三郎、後半は三善晃、三木稔・佐藤勝・中田喜直の歌曲のぞんだ、平井歌曲も情感表出もよかったが、前半では「パリ旅情」が情景描写に優れた。深尾の詩、高田の曲が、イメージを非常に沸き立たせるのだがそこへ前中歌唱が色調を加え「売子」「街頭の果物屋「市の花屋」なんか、小肥りのオバさんの威勢のいい、けれど人生を語る姿が見えるようだった。おそらく前中の胸中にいい絵が描かれているのであろう。後半の三善晃「抒情小曲集」も萩原朔太郎詩と三善音楽の抒情美抽出に努め、詩体の格調も歌い出された。「ほほずき」の「男ごころのかなしさを、さも忍び音に泣けよかし」なぞはいささか胸に落ちた。「一本の鉛筆」「悲しくなったときは」が共感著しく、ともに愛と生命の尊厳をメッセージして聴き手に強く迫った。ピアノ花岡千春 (小山晃 音楽の友)