CDのご紹介

日本の歌に魅せられて (2004年発売)

Maenaka Eiko

日本の歌に魅せられて
前中榮子(ソプラノ)
花岡千春(ピアノ)
【ライヴノーツ(D) WWCC-7479】
発売元:ナミ・レコードCo.,Ltd.
定価:2,625円
2004年9月25日発売

 

「風に寄せてうたへる春のうた」
・青き臥床をわれ飾る ・君がため織る綾錦 ・光に顫ひ、日に舞へる ・たたへよ、しらべよ、歌ひつれよ <山田耕筰 曲:三木露風 詩>
・ばらの花に心をこめて <山田耕筰 曲:大木敦夫 詩>
・からたちの花 <山田耕筰 曲:北原白秋 詩>
歌曲集「子供の国」
・簑着て通る・あの紫は・ちいさなちいさな水車・ぶらんこ・お使ひ・赤い風船 <諸井誠 曲>
「八木重吉による五つのうた」
・秋の空・素朴な琴・秋・雨・夕焼 <畑中良輔 八木重吉 曲>
「萩原朔太郎に依る四つの詩」
・雲雀料理・草の茎・遊泳・笛 <團玖磨 曲:萩原朔太郎 詩>
・はる <團玖磨 曲:萩原朔太郎 詩>
・旅上 <團玖磨 曲:萩原朔太郎 詩>
「わがうた」
・序の歌・孤独とは・ひぐらし・追悼歌・紫陽花 <團伊玖磨 曲:北山冬一郎 詩>

 


各方面からの声

「魂に触れる歌−前中榮子による日本歌曲集」・・・保坂裕史氏
 永年、日本の歌曲に優れた歌唱を聴かせてきた前中榮子、本格的なCDデビューです。

 

『レコード芸術』(音楽之友社)2004年12月号より
喜多尾道冬●Michifuyu Kitao
 「歌」を歌うという行為は、自分を超えて、美しいものとか、崇高なものに近づこうとする衝動と結びつくこともある。この演奏から伝わってくるのはその懸命な努力である。自分が達したい崇高さや美は、自分を映す鏡のなかに見つかる。
 「鏡よ、鏡よ、世界中でいちばん美しいのばだれかい?」とつねに自分に問いかけることによって自分を磨いて行き、目指す崇高な美に達することができる。鏡のなかの自分を凝視し、どこをどうすれば美しくなるかを研究し、しだいに理想に近づいてゆく。
 その過程がこのCDの演奏のなかに如実に見てとれる。声を、アーティキュレーションをできるかぎり磨いてゆくなかで、今の自分が最高に美しくかがやいているのではないかとうっとりする瞬間がある。
 しかしまたここを磨けばもっとよくなると思い直して、再度パフやペンシルでていねいに顔を造り直す。そしてまたさらに美しくなった自分に感動し、雲の上に出たような高揚感を味わう。
 しかしそれで満足して止まってしまうことはない。自己満足の世界に足を踏み入れながらも気持はいつも一歩先を行き、さらに上を目指し、美しくなりたい、まだまだ美しくなれるはずだという夢を追いつづける。理想と現実のギャップのはざまで、いわば違った自分の顔が映るふたつの鏡のあいだを行き来しながら、理想に近づいた自分にうっとりしては、またまだ足りないものがあることに気がつき、修正の作業を繰り返す。その堂々めぐりの輪のなかから出られない。どこかで「キメ」が必要なのだが。
 ファウストは「時よ止まれ、おまえはかくも美しい」と言った瞬間に、彼はメフィスト上の契約によって死ななければならない。芸術は永遠の運動のなかにあるのか、死を賭けた美の停止のなかにあるのか。この演奏はそのアポリアを問いかける。

 

相澤昭八郎●Shohaciro Aizawa
[録音評]問接音を多めにとって、ゆったりした快い音場空間が拡がる音づくり。ソロはやや距離を置いた印象で、このホールの2階席前列といつたプレゼンス。曲目や歌唱の雰囲気との相性もよく配慮されている。ソロの背後に小ぢんまりした音像を結ぶビアノとのバランスも適切で、トーンは繊細で爽やか。2004年3月、東京、三鷹市芸術文化センター

 

『CD紹介』2004年12月号より
自然な発語による歌唱を重要視するのが主流となってきつつある、現代日本歌曲の世界。しかし彼女の歌は、より美しい声の響きを日本語に乗せようとするスタイルを意識的に保っているようだ。それだけに“鈴を転がすような美声”という昔ながらの表現が似合う。(榊)


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